敬称のプロトコール

2020/09/05 - 乃万 暢敏 - ブログ記事

日本語には様々な敬称がある。筆者の名前を例に考えてみよう。一般的には乃万暢敏「様」であろう。親しくなれば、乃万「さん」と名字だけになる。学生時代の友人は、相も変わらず、乃万「!」と呼び捨てにすることもある。同級生の女子はたいてい乃万「君」と呼んでくる。全く不快感はないし、同級生から乃万「様」などと呼ばれたら、こちらがぎょっとしてしまう。

因みに、陛下は筆者のことを「乃万君」とお呼びになる。筆者の家内は「典子」だが、陛下と私の1年後輩で、音楽部でも後輩だったので、陛下は「テンコちゃん」とお呼びになる。

筆者は職業柄、先生と呼ばれることが多い。私はあまり気にしないたちであるが、流石に、乃万殿と普通の手紙やメールで呼ばれると、妙な気分になる。

さて、封書の宛名で、どなたかの奥様のことを、正式に夫君と連名で書くときに、どういう書き方をするのが正しいか?ここでも、筆者の名前を例にする。正式には、夫君の名前を中央に書きその左側に「令夫人」と書くのが正しいプロトコールだと思っている。在京リトアニア大使館で大使の顧問をしていた時、宮内庁から大使に封書が届いた。大使から、こういうものが来ているが、どの様に対処したら良いか?と意見を求められたことがあった。中身は公式な内容であり何等の問題もなかったが、筆者にとって興味があったのは、宮内庁からの正式な封書の表書きであった。筆者は初めて正式な宮内庁からの封書を見た。そこには、大使の氏名(カタカナ)+「閣下」とあり、その左側に、大使の宛名と均等の幅をもって「令夫人」と記されていた。これはなかなか興味深く、年賀状などでは連名を下揃えで書くが、上下を合わせて墨書してある封書を初めて見ることができた。よく「令夫人様」と二重に敬称を記したものを見ることがあるが、これでは、松竹映画の「拝啓天皇陛下様」になってしまう。

本邦に限らず、奥方の呼称については難解な点がある。筆者の名前を英語表記すると、Mr. Nobutoshi Noma となる。つまり、名前の前に敬称を付けるわけだが、これは中学校の英語の時間でも習うことだ。Mr.   Dr.  Miss  Mrs.  Ms. などが一般的である。(英国の貴族を含めると複雑になりすぎるので、ここでは省略する)普段何気なく使っている敬称だろう。博士号を持っている方には、必ず、Dr. を用いるべきであるので、息子には勝てない。

一方、筆者の妻をどう呼べばいいのか?と一般の方に問うと「それはMrs. でしょう」と答えが返ってくるに違いない。Mrs. Noriko Noma で正しいのだろうか?このように用いている方がほとんどだと思う。しかしよく考えると、Mrs. の意味は○○○夫人ということである。つまり、既婚女性の敬称は、「夫の妻」と表現することになる。Mrs. Noriko Noma は、乃万典子の奥方と奇妙な表現になってしまい、「???」である。正しくは、Mrs. Nobutoshi Noma (乃万暢敏の奥方)と表現することが正しいのではないかと思う。

大使館ではよくレセプションを行うが、正式な招待状の場合、誰が何のために開催すのかを、必ず明記する。もし筆者が大使で、レセプションを主催する場合、Mr. and Mrs. Nobutoshi Noma とするわけで、Mr. Nobutoshi Noma and Mrs. Noriko Noma のように表記することはあり得ない。これは冒頭で述べた通り、令夫人の意味になるからである。

事程左様に、プロトコールというものは大変奥が深く、歴史とも大いに関係がある。人や状況によっても解釈が異なることも、また難しい点である。