皇宮警察官よ。誇りを持て!

2021/03/10 - 乃万 暢敏 - ブログ記事

皇宮警察の不祥事は誠に悲しいものがある。

皇宮警察官は、天皇陛下をはじめとする皇室と、皇居・御所の警護にあたる警察官である。一般の警察官が地方公務員であるのに対し、皇宮警察官は国家公務員である。週刊文春 2021年2月11日号によれば、京都御所などの警備を担当する京都護衛署長の柴山成一郎氏(59)が、内縁関係の女性を赤坂御用地に宮内庁の許可をとらずに招き入れていたという。

柴山氏は、1985年に皇宮警察本部に入り、監察課長や警備二課長などを経て、令和2年4月より京都護衛署長の任にあった。経歴からすると、護衛部には所属したことがないようなので、これがせめてもの救いであった。

護衛部に所属する皇宮警察官は、「側衛」とも呼ばれ、直接、天皇陛下をはじめ、各皇族方の身辺警護を行う、言わば皇宮警察官の花形である。

側衛の護衛官に求められるのは、身を挺して皇族をお守りすることはもちろんだが、護衛術はもとより、多方面での「教養」が求められる。武道はもちろんのこと、茶道やプロトコールを身に付けねばならない。皇族方が好まれる、テニスやスキーの腕前も上げなければならない。
また、皇族の身の回りのお世話をすることもある。そのため、側衛は皇宮警察官であるとともに。内閣府事務官の肩書も持っている。(当時、総理府事務官)

私が大学生のころは、陛下(当時、浩宮徳仁親王殿下)の護衛には、通常、5人の専従者がいた。陛下と私は、学習院大学文学部史学科に入学したが、当時の歴史学会は、戦前の皇国史観を打破し、唯物史観に基づく左派系の先陣をきっており、皇室に対しては厳しい風が吹いていた。

学内においては「大学の自治権」を唱える学生グループがあり、国家(警察)権力が構内に立ち入ることに反対運動が起きていた。当時の学習院大学長は日本近世史で素晴らしい業績をあげられた、児玉幸多先生であった。児玉学長は、「大学構内に入る警察官は、専ら浩宮殿下に対しての護衛であり、諸君の自由な自治や学問に介入するものでは決してない」とされ、宮内庁東宮職、皇宮警察、警視庁、目白署員が胸に付けるバッヂを示した掲示を学長名で公示し、事態を見事に鎮静化された。

しかしながら、学科内では殿下に対する抵抗感が少なからずあった。私は大学入学前から、少なくとも1,2年は陛下と行動を共にして欲しいとの依頼を受けていたので、常に陛下とご一緒に行動していた。

前述したとおり、大学構内での陛下の護衛は5人の側衛(皇宮警察本部護衛部護衛第二課所属)が担当していた。彼らからも私に協力要請があった。メンバーは、皇宮警視(総括)、皇宮警部2名、皇宮警部補、皇宮巡査部長であり、大学卒業後まで、優れたチームを形成しいた。側衛チームのトップはS警視、後にノンキャリ組のトップである護衛部長まで昇進した。また、2人の警部は、それぞれ、侍衛官、赤坂護衛署長、吹上護衛署長、坂下護衛署長を皇宮警視正として立派に勤め上げたエリート達であった。

幸いにしてそのチームは学習院高等科から側衛として学校内にいたので、私とは顔見知りである。側衛チームと相談をしながら、「如何にして、史学科の先生や学生の中に溶け込むことができるか?」この命題に向き合った。

側衛たちは、なるべく目立たない、スマートな護衛を目指した。一例を挙げると、警備関係者の連絡用の無線機の装着、使用方法を改善し、本体は腰のベルトに、イヤフォンはシャツの内側を通し、Yシャツの襟から目立たないように耳に装着した。問題はマイクであるが上着の中から線を伸ばし、上着の内ポケットにクリップで挟み、通信するときには左の上着を持ち上げ、その中で小声で送信するという念入りな装備であった。

そうした目立たない護衛を行うわけだが、陛下がお会いになる学生諸君の中に溶け込むことが出来るか?これが最大の問題である。その橋渡しを私がすることになった。

当時の史学科は圧倒的に女子学生の人数が多かった。1学年、定員80名のところ、男性は10名足らずだった。私は女子学生に注目して、陛下を気さくに受入れてもらえるよう、陛下のお人柄やお立場を説いたものだった。

そうこうするうちに、陛下は学生たちの人気者になられた。これは陛下の真摯で真面目な態度。誰に対しても平等にお話される。その上で、陛下のお得意のウイットに富んだユーモアたっぷりのお人柄に接し、たちまち人気者となられた。

皇太子殿下のころ、私は陛下に「これまでの学習院生活の中でいちばん楽しかったのはどこですか?」と尋ねた。陛下は「乃万君は?」私は「それは何と言っても大学ですね」陛下はすかさず「僕もそうだよ!お互いに苦労はしたけれどね」と。

陛下と私が自由な大学生活を送りながら、互いに絆を深めていった背景には、皇宮警察のチームの存在が極めて大きかったと思っている。

こうした立派で献身的な皇宮護衛官たち。大学卒業後も個人的に、親しい飲み仲間になった。彼らとの交流は私の人生の中でも、楽しく、そして意義深い大きな存在である。

皇宮警察官の諸君。近衛の心を忘れずに、陛下と国民の融和を念頭に、誇りを持って職務を遂行してもらいたい。